大手塾で22年間、講師・エリア長として教壇に立ち続けた伊藤昇一先生。
2023年6月、静岡市葵区に小4〜中3対象の塾「TENTORU籠上,賤機の塾」を開業しました。
TENTORUは3年連続で在籍する中3生全員が公立高校に合格。高校受験に特化している地域密着の塾として、一人ひとりの伸びしろを引き出すスタイルが支持されています。
では、そんなTENTORU籠上,賤機の塾が多くの方に支持されている理由は何なのか。ゼロ塾ガイドは、伊藤昇一先生に独自に取材し、その理由を深掘りしました。

大手塾22年。独立を決意した理由

渡辺なおや伊藤先生は塾業界22年のご経歴をお持ちですが、独立を決意されたきっかけは何でしたか?
大手塾にいると、指導そのものよりも運営や人間関係に時間を取られることが多かったんです。結果を出しても、それがプラスに働かないことがあった。給料にも反映されないこともありました。
だったら自分でやって、指導の結果をストレートに受け取ろうと思ったのが出発点です。
僕は基本的にコミュ障なんですけど(笑)、仕事になると切り替えができるタイプで。結構クセが強いんですよ。だから大手塾の中だと、存在感が大きくなりすぎて、やりたい指導ができないことも多かった。自分の考えた伸ばし方を、自分の裁量でやろうと決めました。
もう一つ、お金の話もあります。教育といっても慈善事業ではないですから。資本力がなければ、いい講師も雇えないし、次につなげていくこともできない。まず自分にちゃんと資本力がある状態を作ろうと思ってスタートしました。
渡辺なおやー開業当初、1人目の入塾から中3満席まではどんな流れでしたか?
基本的にはポスティングがメインでした。ひたすらポスティングです。
地域とのつながりや、中学校とも接点があったので、ポスティングのチラシが入って、「あ、あの人なんだ」とつながりました。そこから口コミで広がってくれましたね。
2社目の大手塾時代に、地域には(そこそこ)顔が知られていたんですね。生徒たちが僕のことを買ってくれていたおかげで、名前が広まっていた。だから独立するときも、できるだけ自分の顔を載せて、自分の言葉を中心にしたチラシを地域にまきました。
「この人、なんか見たことあるな」という反応から始まって、最初の夏期講習で16名、入塾14名。個人塾の初年度としては本当にありがたかったですね。12月には中3が満席になりました。
適正価格で全員を伸ばす。「点取る」に込めた思い

渡辺なおやー「適正価格で全員を伸ばす」という方針にたどり着いた背景を教えてください
静岡あたりで塾講師として就職しても、年収は決して高くありません。家族を持っていても老後が心配になるくらい。資格がない仕事だから、誰でも入ってこれてしまう。長時間労働で低賃金、社会的な地位も低い。
でも、子どもたちに向き合って指導できるのは、本当にありがたい仕事なんです。保護者の方にも感謝していただける。やりがいはあるのに、待遇が追いついていない。この構造を変えたいという思いがありました。
一人でもちゃんとできる業務フローを持てば、人件費を下げられる。塾って、本来は十分に利益を出せる業界なんです。ただ、対面で人を揃えなきゃいけないという前提があるから、コストがかさんで給与が低くなる。
その仕組みを変えれば、自分の給与もちゃんと上がるし、一般的な塾より費用も安く抑えられる。保護者の方も助かる、自分も助かる、子どもたちにも未来を見せられる。 そういう塾でありたいと思っています。
渡辺なおやー塾名の「TENTORU」にはどんな思いが込められていますか?
校舎名の「籠上(かごうえ)」「賤機(しずはた)」は、籠上中学校と賤機中学校から取っています。地域の方が検索しやすいようにという意図ですね。
グループ名の「TENTORU」には別の思いがあります。塾というのは、何があっても点数を取ってなんぼだと思っています。
寄り添う塾、面倒見がいい塾、もちろんそういう価値もある。でも僕たちは公教育ではない。私教育であるならば、その子に先を見せないといけない。だから僕自身としては、点数を取ることでしか自分の存在価値はないと思っています。
点数が取れれば、成功体験が生まれる。成功体験があれば、子どもたちはそこからやる気を出してくれる。一度頑張ったことがある子は、もう1回頑張れるんです。やったことがない子は、頑張るって何かを知らない。それを一緒に体験してもらう場所が、うちの塾です。
3年連続全員合格を支える、データと勉強の土台づくり

渡辺なおやー3年連続で在籍中3生全員が公立高校に合格されています。
指導の工夫を教えてください
一番は情報収集です。子どもたちの学力状況と伸びしろを、感覚ではなく数字で把握すること。
僕は感覚で仕事をしたくないんです。自分が集めた都合のいい数字ではなく、教育委員会のHPや地域の私塾グループなど、第三者が集めた客観的なデータを使います。各中学校の平均点も全部収集しています。
その上で、「この子は今年このデータならこの高校まで伸びるよ」という見立てを立てる。やっていないだけで、伸びしろがある子がほとんどなんです。
「あなたがこの高校に行けるよ、プラス30点は夢じゃない」と伝える。英語でも、単語を覚えてやっていけば17点が33点になる。2倍近く上がるんです。
それを伝えることで、生徒たちがモチベーションを持ってくれる。模擬試験で少しずつ結果が出てくると、自分の可能性に気づいていく。下馬評を覆して合格してくれる。 そういう指導です。
もう一つ、ホワイトボードに全員分の一覧表を作っています。宿題を何を出して、テストで何点だったか、未提出のものは何か。全部記録して、必ず追いかけます。全員分です。「何をしていいかわからない」という状態にはさせません。

渡辺なおやー勉強方法としては、具体的にどんなことをされていますか?
一番の土台は、読み書き計算です。
英語であれば、教科書の本文を写す練習もしています。入塾した子の半数以上は、教科書の本文すら正確に写せないんです。ピリオドが抜けたり、スペルが違ったり。be動詞を知っていても訳し方を知らないとか。だったら本文を丁寧に書いて覚えなさいよ、という反復練習です。
計算力がない子にいくら教えても、最後の答えまでたどり着けません。受験はほとんどが時間勝負。シンプルな読み書きや計算のスピードがなければ、解ける問題も解けない。こういった土台を、小テストや演習を重ねて鍛えていきます。
1回で覚えられることなんてないんです。 ノートに残して、何度もそこに帰ってこさせる。そのサイクルが大切だと思っています。
TENTORUを選ぶご家庭と、27年で印象に残る場面

渡辺なおやーTENTORUを選ばれるご家庭にはどんな共通点がありますか?
「現状をなんとかしたい」「打破したい」と思っている保護者の方が多いです。「勉強すればいい」という感覚の親御さんは来ないですね。
うちは入塾前に2週間の無料体験を設けています。その期間で塾の指導を見てもらうのと同時に、僕も見ています。「あなたは頑張りますか、宿題やりますか」と。その2週間でやるべきことに手がつかないのであれば、申し訳ないですがお断りすることもあります。
正直、頑張っていただけるなら誰でもいいです。本人が何とかしたい、頑張りたいと思っているなら全然問題ない。あとは気にしていません。
渡辺なおやーこれまでで印象に残る場面を教えてください
27年目になるので、一番を選ぶのが本当に難しいんですが……。3つだけ話させてください。
1つ目は、河合塾マナビスで校舎長をしていたときの話です。保護者会を開催したとき、お帰りの際に保護者の方から「学校の進路指導よりあてにしています」と言っていただいたことがあります。
それだけ情報収集と状況把握はしていたので、認めてもらえているようで嬉しかった。ただ、保護者会を最長2時間もやったことがあるのは、さすがにやりすぎだったと反省しています(笑)。
2つ目は、同じく河合塾マナビスの校舎長2年目。浪人が3名出てしまったんです。お詫びの電話を入れたんですが、そのご家庭すべてから三者面談のご希望をいただきました。
「これからどうしたらいいか」と。力が及ばなかったのに、それでも信頼してくださったことが嬉しかった。ただ同時に、期待に応えられなかった悔しさも痛切に感じました。
3つ目は、遥か昔の2002年。就職1社目の2年目、校舎長初年度の中3生です。生徒アンケートがボロボロで、クレームをたくさんもらいました。上司からそれを知らされて、その日の授業冒頭で頭を下げて「もう一度授業を見直すから、機会がほしい」と謝罪したんです。
その後、受験直前にその学年の女子の1人が「みんなこの塾に来て勉強したらいいのにね」と言ってくれた。心から嬉しかったことを覚えています。それから25年経ってもこの業界にいる理由の一つになっているかもしれません。
これから大切にしていきたいこと

渡辺なおやー今後、TENTORUとして大切にしていきたいことを教えてください
保護者の方も、ご本人も、そして講師も、全員がちゃんといろんな意味で潤うような塾にしたい。そして、「これが私教育だ」というものを広めていきたいと思っています。
保護者の方には、見守るしかない大変さや辛さがある。ちゃんとお金を入れてくださっている。だからこそ、必要なことは嫌なことでもちゃんと言います。
生徒には、ひたすら自分の勉強に向き合ってもらう。甘いことは言いませんよ。でも、教えられる教科は全部自分でちゃんと勉強しながら教える状況にしていく。
大手塾で教えられる科目が1〜2科目しかなかった時代もありますけど、中学生の5教科くらいは努力でなんとかなる話でしょうと。
必要な子に、必要な勉強を、適正な価格で。 これからもそれを続けていきます。
本記事は、教育関係者・保護者・塾運営者などへの取材をもとに構成した一次情報コンテンツです。
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